ナップザックひとつ持って、
缶コーヒー片手に、
真っ青な空の下、
きっと、
どこまでだって行ける。






 端末は持っていくのでしょう?と、決して曇らない穏やかな微笑みが問い掛けた。

 「困ったことがあったら、いつでも連絡してちょうだいね。」

 「ありがと。でも心配ねぇよ、なんとかなるさ。」

 今までだって何とかなったし、悪運の強さは折り紙付きだし?

 軽くおどけてみせると、サリィは少し笑った。それは苦笑に近いもので、仕方のない子ねと言われているようで少し反省する。彼女には今まで心配ばかり掛けていた。デュオに対して、どこか年の離れた姉のように接する彼女の慈愛に満ちたまなざしは、本当に自分はいつまでもたっても子供扱いだなと呆れる反面、幼いころを思い起こさせる温かさで、くすぐったくて気持ちが良かった。だから最後まで甘えしまう。

 「あー…と、それから、お嬢さんに謝っといてくんねぇかな」

 サリィは少し不思議そうにして、何を?と問い返した。

 「…あいつ。ちょこっとだけだけどさ、オレが連れてっちまうこと」

 良い気はしないと思う。当然だ。最愛の男をさらっていってしまうのだから。

 傍らに停めてある車の助手席に目をやると、不意にサリィがデュオの手を取り、胸の辺りで強く握り締めた。
 まるで神に祈るような仕草で。
 そうして、これまで幾度と無く口にしたことばを、また繰り返す。

 「…デュオ、ひとりになっては駄目よ。」

 彼女は、こどもに言い聞かせるように繰り返しことばにする。あなたは、ひとりでは無いのだと。

 「忘れないで、デュオ。」

 何もかもひとりで背負い込むことは無い、甘えることを覚えなさい。弱味を見せることに慣れなさい。あなたにはそれが許される。許される場所がある。あなたはあなたが思うより、ずっとずっと世界に愛されているのよ。

 「…忘れないで」

 デュオの目をまっすぐに覗き込んで、それはまるで縋るような懸命さだった。
 デュオは大きい目を一度ぱちりと瞬きさせると、その言葉の優しさに胸が熱くなっていくのを感じる。

 ああ、シスター。
 オレって幸せ者だよ。
 かつてオレに命を吹き込んでくれたあなたのことばを、いまだに囁いてくれる人がいるなんて。

 本当に嬉しくて、デュオは久しぶりに何の打算も無く心から笑えた気がした。

 「ありがとう、サリィさん。」


 その瞬間のサリィのどこか痛みに耐えるような表情は、見ない振りをした。









 「さあて、出発だ!」

 景気良くドアを閉めて、その勢いのままエンジンを掛ける。ブォンと響く振動。
 天気は快晴。上々だ。

 どこへ行こうか。目的の無い自由な旅。どこへだって行ける。
 暖かくて、陽気で、歌いながらの旅が良い。

 そうだ、南に行こう!

 自分の思いつきがとても素晴らしいものに思えて、デュオは助手席を振り返った。


 「な!お前はどこに行きたい?」





『           』





 耳に直接響く、低く優しい声。

 デュオは微笑んで、クラッチを踏み込んだ。





 大丈夫、ひとりなんかじゃない。
 おまえがいるんだから、オレは大丈夫だよ。
 どこへだって行ける。






 軽快に音を鳴らして、一台のバンが走り出す。


 助手席のシートには、両の手のひらに納まるほどの小さな箱がひとつ。
 純白の絹のスカーフに包まれたそれを、静かに風が撫でていった。













行く果てにあるものは、楽園か、それとも、





なんだって構わない。
だっておまえがいる。オレは、ひとりじゃないんだから。









/南への逃亡者 2008/02/14




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そうだ!京都に行こう!なノリで…。
これ、ひょっとして最初に注意書きとかしとくべきでしたかね…。
いやでも、そしたら最後のオチが…(オチかよ)。
あの…いろいろすみませんでした…。