| カンカナ10題より |
| 「ひとつだけ、いいかな」 「?」 「黙秘も誤魔化しも無しで」 「…なんだ?」 人に与える印象が違うだけで、本心を伝えることが苦手なのは彼も自分も同じなのだと思う。 柔らかく拒絶することにばかり長けた僕と、真面目すぎて簡単に言葉を選べない君と。 だから音には頼らない。 手を伸ばす。 それだけだ。 (抱きしめて) |
| /同類カテゴライズ 2007/04/30 珍しく甘め 戻る |
| きちんと向き合って顔を見たのは久しぶりだと、気がついた。 「不毛だ。」 そんなことにも気がつかないほど忙殺されていた、ということも事実には違いないが、避けられていたのだとここに来て初めて思い当たる自分の不甲斐なさに言葉を失った。 「僕が君を、このまま、好きで、いることが…」 不二は俯いたままで、あくまでも淡々と言葉を紡ぐ。 不二は手塚に向き合うとき、いつも笑っていた。思えば不二の剣呑な表情など、コートの中でしか見たことが無い、…ような、気がする。 「離れたままで、たった2週間…でも、こんなに辛い」 長めに整えられた前髪が邪魔をして、不二の表情が伺えない。 分からないから、一番見慣れた不二の笑顔を思い浮かべるしかない。 今、無性に不二の顔が見たいと思った。 見えない、ということが、余計に不安を掻きたてる。 アメリカへの留学の日程が決まってから日本を発つまでの2週間、思い出すことも無かったのに、だ。 顔を上げさせようと、頬に手を触れようとしたとき、今日はじめて不二が顔を上げて手塚を見た。 驚いた。 失敗した、笑そこねたという不二の顔を、手塚は初めて目にした。 瞼も唇もかすかに震えていて、琥珀に覗いた双眸は、もしかしたら潤んでいるのかもしれない。 「…手塚、」 ひとつもいつもの不二らしくなかった。 顔を見て話さないことも、歯切れの悪い話し方も、笑顔になりきれていないことも。 泣きそうな顔など見たのも、初めてだった。 「僕が声を、忘れる、前に、…………」 それ以上、不二は続けなかった。 ただなりそこなった笑顔のまま、静かに手塚の手を拒否した。 恋人のそんな態度を前にしても、躊躇わず踏み出す己の足に他人事のように感心しながら、手塚はしかし不二が日本で待っていてくれることを欠片も疑っていない自分に気がつく。 今、不二はどんな顔をしているのだろうか。 いっそ、泣いていてくれたら――― ずいぶんと勝手な期待だと自覚しながら、それでも手塚は振り返ることは無かった。 |
| /鮮烈エゴティスト 2008/05/03 エゴティストっていうか………。 戻る |
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少しだけ、少しだけ、と思いながら、いつまでも止められないのは、安物のドラッグのようだと、茹だった頭で考えていた。 だからと言って手を引こうなどと思ったことは無かったけれど。 初めは、そう、ジャージを手渡した時の、刹那にも満たない接触だった。利き手の薬指、第二関節。掠る程度、触れただけの感触が、火傷のようにジリジリといつまでも残っていて、そのときは不快にすら感じた。そんな馬鹿らしいほど些細なことを長く意識していたことを自覚して驚いたのは、ドリンクを渡したときだ。 二回目の接触。 あの白い手首を、爪が撫でた。 思わず力が入ってしまって、渡すはずのドリンクは手塚の手に残っていた。 不二が怪訝な様子で首を傾げたのが、髪の揺れる気配から伝わった。 視界の端に靡く髪の先は、光を反射して黄金色にも見える。 『…手塚?』 名前を呼ばれると耳が痺れたような気がして、僅かに力が抜けた。 不二がドリンクを受け取って口に運ぶまでを目で追っていた。手首と同じくらい、日に焼けない白い喉が、液体を嚥下して上下に動くのを止めるまで、目を逸らせなかった。 同じボトルから先に飲んだのは、確かに自分だったと、漠然と意識しながら。 不二に触れる度に訪れる衝撃は身体の芯を走り抜ける電撃のようで、手塚に不思議な感覚を齎した。 三度目は故意に触れた。目の前を横切った白い腕を掴んだ。 さほど驚いた様子もなく不二が振り返る。ただ、不審そうに眉を顰めていた。 細くてもしっかりと弾力のある筋肉の脈動をダイレクトに感じ取って、頭の芯が熱を孕んだようにぼやけていく。 『なに?』 思いつきに任せて手を伸ばしたものの建前まで用意していなかったので、どうしようかと考えている一瞬、目が合ったまま少し妙な間が空いた。 腕を振り払われる前になにか、と逸る気持ちが、おそらくこの場では言ってはいけないことを吐き出させた。 『……なんだって?』 手塚の無表情が幸いして心情を不二に悟られることはなかったが、自分の発したことばが不二の機嫌を損ねたことは明らかだ。低く落とされた声が手塚の正気を窺っている。 発した自分自身が耳を疑った程だ。おそらく不二はことばの意味すら分からなかっただろうう。 どうしていいかわからず続くことばを見つけられないまま、空気が凍りついた。 コートの向こうから大石が呼びかける声に助けられ、手塚は困惑している不二を残してその場から何とか抜け出した。 不二の様子を確認する余裕は無かった。 それ以来、不二は手塚に対して警戒という名の壁を作っていた。 露骨というほど分かりやすいものではない。だが牽制のように、手塚にだけはっきりと意識できるように手塚を避けている。 器用なものだと思っただけだ。 それは手塚にとって何の障害にもならなかった。 そんな消極的で脆弱な壁など何の効力の無いのだ、手塚が、触れようと思えば。 枯葉が素肌を掠めるように手塚の接触は続いた。 後を引くようなものではない、しかし確実に感触が残るように。 不二には不快でしかなかっただろう。向けられる視線の鋭さが物語っている。その視線さえ手塚には心地よい。 もしかしたら、待っているのかもしれない。 不二が自分の不可解な行動に痺れを切らす時を。 不二が、その行動の真意を問うてくるのを。 さて、そうしたら自分は一体どう答える気なのか。 明確な答えを見つけ出すことは出来ないが、その答えを聞いた時の不二の表情だけは、なぜかはっきりと想像することが出来た。 そう遠くない未来に目にするだろうその光景を思い浮かべ、手塚は陶酔する。現実になる瞬間に思いを馳せる。 さあ、今日はどこに触れようか。 |
| /煩悩インダクタンス 2010/06/23 手塚がキモイ 戻る |